先月のことです。
4月初旬、やわらかな風に春を感じ、桜の淡いピンクに胸が弾む頃
待ち焦がれていた本『なないろの記』が我が家に届きました。
この本は作家 石川真理子先生が主催された【本気の文章講座】の受講生7名が
本気で文章に向き合い、心を込めて綴った作品集です。
この講座が開講された1年前
私は闘病中の母を引き取り、介護と仕事を両立させていた時でしたから、文章に向き合う時間などあるはずもなく、学びたい気持ちを諦めるしかない・・・と何度も自分に言い聞かせたものの、学びたい気持ちはおさまることなく
石川先生から美しい文章を学びたい
この気持ちを諦めては介護が辛くなってしまうに違いないと、本に挑むクリエイティブコースではなく、文章の基本を学ぶベーシックコースなら今の自分でも出来るかもしれないと考えたのが申し込み締切まで10分を切った時でした。時計を見ながら大慌てで申し込んだのを鮮明に覚えています。
最初の頃は母のお世話をしながら頭の中で文章を考え、隙間時間にパソコンで仕上げるというギリギリのところで踏ん張れていたものの、
癌末期の介護ですから、次第に想像を超える過酷な時を迎え、学ぶどころではなくなるのですが
石川先生の温かなお心に触れて、焦ることなく、穏やかな中で母の旅立ちを見届けた後、お講座に復帰、クリエイティブコースにすすむお許しをえて、本を執筆する1人に加わることができました。
初めての執筆
母を自宅で看取った後からすぐ、文章に向き合う日々でした。
なぜここまで頑張れたのか私にもわかりません。
ただ、母と過ごした最期の時を書いて残したい一心でした。
書くために母と過ごした日々を振り返る中でわかったのは、無意識に感情を抑えて動いていたということでした。
本当は猛然と怒っていたこと
ものすごく怖かったこと
やりきれない思いで押しつぶされそうだったこと
この本当の感情に気がついていたら穏やかな介護ができなかっただろうと気がつくのと同時に「よく頑張ったよ」と自分で自分をいたわる時間でもありました。
私のこれまでの過酷な経験が、母の最期の時を穏やかに迎えるために必要な出来事だったのも、この時に分かったことでした。
母とは決して仲の良い母娘ではなく、わだかまりのある関係でした。
妹のそばに住み、妹の子育てをずっと手伝ってきた母
私にはわがまま放題な母を引き取る覚悟をしたことや、介護と仕事の両立中にも苛立つことなく穏やかに自分をどうやって保っていたのかなど、介護されている方だけでなく子育て中の方にもお役にたてたらうれしく思います。
本の完成
石川先生編集のもと、出来上がった作品は、7名の書き手がそれぞれ自分の人生と向き合い、命を削ってと言っても過言ではないほどの心を尽くした、一本の軸の通ったものとなっていました。
初めて本を手にした時、感動で涙が止まりませんでした。
この本の書き手となれたことに感謝の想いでいっぱいです。
執筆を終えて
これまでに経験したことのない、自分の内面と向き合う時間でした。
長い年月を娘たちの母として生きてきた私ですが、介護中は母の娘であり「太田さんの娘さん」と呼ばれる懐かしくもある時間でした。
自分に正直になると、感覚が研ぎ澄まされていくようでした。
この感覚から、母と過ごした最期の時間を書いたこの作品のペンネームを、旧姓で出していただくことにしました。とても懐かしい名前『太田晴子』です。
『なないろの記』のお求めは
石川真理子先生編集のもと、装丁と各作品の扉絵に日本画家 太宰宏恵さんの作品が用いられ、他にも多くの方々のお力で細部にまでこだわりぬかれた本です。全ページカラーのとても美しい贅沢な仕上がりとなっています。
本を本当に必要としてくださる方にお求めいただきたい、本を大切に扱いたいという思いから、『なないろの記』は在庫を持たずにご注文いただいた分だけ印刷、製本するという予約販売となっています。